先日、久しぶりに東北地方に遠征した。 以前、自分の実質的な師匠に連れられて行ったことのある、蔵王南麓の美しい峪である。長い林道の果てに現れる流れでは、良い季節になると純朴な岩魚達が盛んに捕食活動を繰り返している。 腹を空かせた悪食な魚は、私の拙い不格好な毛鉤を躊躇いもなく咥えてくれるけれども、ちょっとしたことでヘソを曲げると途端に釣れなくなってしまう。それは大抵人的なプレッシャーに起因することが多いのだけれども、何とも説明のつかないこともあり、前日まで絶好調だった川が翌日には沈黙してしまうことも珍しくない。
けれども、そんな時こそのフライフィッシングなのである。
普通、見える魚は釣れないと言われているが、実は魚を見つけてから手練手管の限りを尽くす騙しあいによって釣ることが出来る(こともある)。所謂サイトフィッシングである。この釣り方にはフライフィッシングの全てが凝縮されているといっても過言ではない。魚を見つける技術に始まり、毛鉤の選択からキャスティングに至るまで高度な技術と経験が要求される。
偶然に左右される要素が少ないので、ラッキーアクシデントが発生することは極めて稀である。魚の大小よりも思い通りに(釣れた!ではなく)釣ったことが重要なのだ。