太古からの遺伝子

Special Thanks! Tsuneto Nakamura(AFS)

一昨年、突然の豪雨によってお目当ての渓流から撤退した後、以前から気になっていた渓流に立ち寄ったことがあった。
話によれば、サイトフィッシングが堪能できる素晴らしい川で、著名な釣り人もしばしば訪れるのだという。
その時は小さな山女魚がひとつ出ただけだったのだが、その後もずっと気になっていたのであった。
今回は地元の在住のプロタイヤー中村さんに無理なお願いをして、念願の岩魚に会うべく東北道を北上したのであった。

事前の段取りでは、くらっちょ君を騙して二人で向かう予定だったのだが、何故か倅1号も同行すると言い出した。
昨年も急に釣りに行きたいと言い出して、鬼怒川水系で岩魚を釣り上げた記憶が蘇って来たのかどうかは不明。
更にはドラヴィダ系千住民族のヨウヂ君まで参戦することになってしまった…

「無理には同行しなくても大丈夫だからネ」と、私。
「いや、別に釣りよりも中村さんに久々に会いたいからさぁ…」と、D系のオトコ。
「ホンネとタテマエは異なる場合が多々あるよな」
「お土産にワイン買っていこうと思うんだけど、赤と白どっちがいいかな?」
いつの間にか本題がすり替わっているのだが…

最近は疲れると腹筋が痙攣してしまう位で、そのほかに不安要素はないのだそうだ。
とは言うものの、こちらは不安要素だらけなのだが…

長い廃道を歩いて川に到着すると、3段の落差を持った滝が目の前に。
この上からが釣りのスタート区間となるのだが、この下流は小さな山女魚とダムから登ってきたハヤしか釣れないらしい。
滝上に生息している岩魚は、無計画な放流事業の厄災から難を逃れて、太古からの遺伝子を脈々と受け継いでいる可能性が高いという。
前出の著名人が惚れ込むのも、そういう点に魅力を感じているのだろうか?

今日は観てるだけ…と、達観していたくらっちょ君が猛然とキャストを開始する。
新しく誂えたSOLID OCTAGON 6’9”4番ロッドが火を噴く。
これまでフニャフニャの竿ばかり使ってきた後遺症で初めは戸惑っていたようなのだが、この日は惚れぼれするようなループで魚の居ない場所を探っていく。
定位していない岩魚を、交通事故的に釣り上げご満悦の様子。

暫くすると、倅1号もサイトで岩魚を手にしている。
10代には到底見えないオッサン感を絶え間なく醸し出しているあたり、やはり血は争えないものだと感心してしまうのであった。

D系のヨウヂ君は、釣りはともかく…などと言っていたにもかかわらず、例によって猪突猛進のヤリタイ放題。
瞬く間に良型の岩魚を連発させて、表情からはご満悦の様子が伺える。

気が付くと、釣れてないのは自分だけである。
渡渉するカモシカを見て喜んでいる場合ではないのであった。

しかし、そこはクールに大人の対応で余裕の表情を見せなければならない。
中村さんの的確なアドバイスで本日最大の岩魚を無事手にすることが出来たのだが…
「!!…〇×△■!!!」
D系が何か叫んでいるようだった。

それは本日3つ目の滝下を釣っている時のことだった。
クルージングしている岩魚に狙いを定めて毛鉤を投げ込んでいると、
「!!…〇×△■!!!」
またしてもD系が叫ぶ。

森のクマさんだった!

くらっちょ君は、玩具の火薬鉄砲を取り出し必死でトリガーを引くも、
「プスッ… プスッ… 」
と湿気た音が川面に虚しく響く。
肝心な時に役に立たない様は、ヤツのナニの如くである。

これ以上の深入りは危険と判断し、14時15分に退渓を開始。
車に戻ったのは16時近くになっていた。
本日は8.4キロの距離を歩いて、1,500キロカロリーの消費。

中村さんと別れ、温泉で汗を流してから帰路につくこととする。
湯船にたどり着く前に脚が攣ってしまって、まともに歩くことが出来ない。
最近、釣りの帰りはこういうケースが多いのだが…

ひと足先に湯船に浸かっていると…
「ウガァ、ウウゥ…」
と、D系のヨウヂ君が洗い場でのた打ち回っているではないか!

「オイ、どうした?」
「は、腹が攣った…」

脚ではなくて、腹筋が痙攣するのは本当だったのか。
しかし、ポコ珍丸出しでビクビクと転がり回る様は今日の岩魚の如くである。
見かねた他のお客さんが、
「あんちゃん、大丈夫か?」
「救急車呼ぶか?」
矢継ぎ早に問いかけてくる。

返答しようにも本人は息が出来ないために声が出せない。
のた打ち回りながら、口をパクパクさせるのみであった。

ご冥福をお祈り申し上げたい。
-合掌- なーむー

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